大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和47年(う)1771号 判決

被告人 後藤隆洋 外三名

〔抄 録〕

所論はまた最高裁判所の昭和三一年八月二二日決定(集一〇巻八号所載)を引用し、刑法一三〇条後段の不退去罪は適法に住居、建造物等に立入った者が要求を受けて退去しない場合に成立するもので、当初から不法に侵入した者については同条前段のみが適用され不退去罪を論ずべきでないのに、原判決が被告人ら学生の大隈講堂の占拠を違法としながら、不退去罪を認めたことは矛盾であるというが、所論引用の判例は、建造物侵入罪は故なく建造物に侵入することにより成立し、退去するまで継続する一罪であるから、侵入者が退去を求められて応じなかった場合においても、侵入罪の外に不退去罪の別罪は成立しない旨を判示したものである。本件においては検察官が建造物侵入の点は不問とし、立証上の理由等から不退去の事実のみを訴因として起訴したと解し得られ、そのことに違法も不当もないから、原判決が訴因事実を認定して、不退去罪の成立を認めたことは大隈講堂の占拠を違法と認めたことと矛盾するものではない。<中略>

所論は原判示第四事実につき、被告人後藤が原判示の目的をもって共同通信会館に立入ったことは同会館管理者の意思に反しないから建造物侵入罪の構成要件に該当せず、また沖繩コザ市における暴動に騒擾罪が適用されたことに関し米国大使館に抗議し、一般市民にその不当性を訴えようとした被告人後藤らの目的は正当なものであり、その目的のために米国大使館前をデモ行進する等他の方法が公安委員会によって許可されず、政治的意思の効果的な表明のできない現実のもとにおいては、同会館のベランダより垂れ幕を下げ、ビラを撒布しようとしたことは已むを得ないことであって相当性を有するものであったに拘らず、原判決が建造物侵入罪の成立を認定したことは事実を誤認したものであると主張するが、原判決が弁護人らの主張に対する判断として説示するところは相当であって原判決に事実の誤認があるとは認められない。所論は共同通信会館には社団法人共同通信社を始め銀行、飲食店、各種商店等二十数個の店舗が入居していて一般人の出入が自由であり、同会館内管理規程中には「共同部分においてビラ類の配布、窓からのポスター垂れ下げ」、「外観を損ずる行為」、「窓から紙片その他物を投げ捨てる行為」等を禁止する規定(一八条)があるが、その趣旨は右のような行為自体を禁ずるもので、禁止事項を目的として会館に立入ることまで禁止するものとは解されないから、被告人後藤らの同会館立入りの目的が禁止事項に該ることを否定できないにしても、その目的で立入ることは自由であって、管理者の意思に反しないという。しかし、会館の管理者が管理の必要上禁止した事項を行う目的で立入ることを承諾することは考えられない。一般人の出入が自由であるということは、同会館内に在る事務所銀行、商店等にそれぞれの用務を果す目的で出入することは管理者が殊更に承諾の意を表明しなくとも承諾し、または承諾を推認し得るから、一々検問等しないということであって、禁止事項を目的に立入る者も外見上、それと明らかに認め得ない限り一般人と識別することは不可能であり、事実上その立入りを阻止することはできないが、管理者の意思に反する立入りであることは否定できない。(このことは、前記管理規程が二二条において一八条所定の禁止事項を全館出入者に準用していることからも窺える。)管理者の意思に反して立入ることが建造物に故なく侵入する要件を充すこというまでもない。

(高橋 寺内 千葉)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!